下北沢南口の「本屋B&B」(世田谷区北沢2、TEL 03-6450-8272)で2月19日、映画「ドストエフスキーと愛に生きる」の公開を記念したトークイベントが開かれた。
同映画は、ドストエフスキー作品の新訳を手掛けた84歳の翻訳家スヴェトラーナ・ガイヤーの半生を追ったドキュメンタリー作品。同イベントの登壇者は、映画監督の森達也さん、映画字幕翻訳者の太田直子さん、劇団「地点」演出家の三浦基さん。会場には約40人の観客が集まった。
イベントが始まると、登壇者がそれぞれ映画の感想を語った。三浦さんは「普通は1人で行う翻訳作業を2人で行っていて面白い。音楽家と本読みをして、言葉を選ぶやり取りがコミカルで印象的だった。私は俳優を通して演劇を作り上げていくので、親近感を持った」。太田さんは「スヴェトラーナは母語でないドイツ語に翻訳していてすごい。日常生活が美しくて丁寧なところが、翻訳の質にも反映されていると思う」。森さんは「斬新な撮影方法をしている。主人公の見た先の風景を写し、感情移入させる方法をあえて行っていない。それにより、私たちはスヴェトラーナに生半可な憑依(ひょうい)をしないようにしている。スヴェトラーナを見ている自分を意識できる。あんな禁欲的なカメラマンは見たことがない」と、それぞれの立場から語った。
ドストエフスキーのロシアドラマを翻訳した経験のある太田さんは、「字幕は映像がありきで文字数制限もあり、書物の翻訳と異なる。しかも、ドストエフスキーは中身が濃くて早口」と苦労を明かした。「原文そのままでは翻訳できない。自分の中に取り込み、情報の取捨選択をし、切り刻んで短くする。字幕の翻訳は罪深いことをしている」とも。
森さんの「10年前の海外のドキュメンタリーは字幕だったが、今はほとんど吹き替えになってしまった。見る方は楽だが、声は情報であり大事」という発言に対し、太田さんは「声は大事だが、字幕より吹き替えの方が内容を多く伝えることができる」と、意見が分かれる場面もあった。
映画「ドストエフスキーと愛に生きる」は、2月22日から、渋谷アップリンク(渋谷区)、シネマート六本木(港区)ほか、全国で順次公開予定。