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「タイに惚れ込んだこだわりの料理人」
タイ料理店「ティッチャイ」 オーナー兼店長 志藤みゆきさん

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■大好きになったタイの「あったかさ」

―もともとタイ料理が好きだったのですか?

 話せば長いのですが…(笑)。もともとは辛いものも苦手だったんです。料理は好きで、19歳から料理の仕事をずっとしてきました。イタリアン、居酒屋、ベトナム料理、焼き鳥、カフェ、いろんなジャンルの店で働きました。そこで出会った人たちの紹介で、次の店に行くというかたちでした。大好きな先輩に呼ばれてベトナム料理屋さんで働き始めたころ、初めてエスニック料理の味にふれて、『これはおいしい』『本場の味を確かめてみたい』と思ったんです。それでベトナムに行きました。人生初の海外旅行でした。

―タイではなくて、ベトナムに?

 そうです(笑)。25歳のときでした。楽しくて、次、どこに行こうかなというときに、タイ料理屋さんで働いている友達から「タイもいいよ!」と言われて…。同じ年にタイにも行きました(笑)。

―タイの印象はどうでしたか?

 空港に降り立ったとき、何か始まるようなワクワク感がありましたね。10日間の滞在で、絶対に行きたいと思っていたメコン川のほか、ラオス、ミャンマー、タイの国境近くまで行ってみたり…。北部のチェンマイも行きましたよ。バンコクには数日滞在しました。カオサンストリートの屋台で、パッタイ(タイ風の焼きそば)食べたり、ビールを飲んだり。とにかく何を見ても何を食べてもとても刺激的でした。食事に関しては、おなかをこわすことはありませんでした。が、辛くて味がよくわからなくて、何が入っているか知りたいと思いました。

―それでタイ料理が好きになったのでしょうか?

 タイ料理というより、タイにはまりました。人がとにかく温かい。だまされそうになった場面もあったのですが、なぜか私をだまそうとしたタクシーのドライバーが食事をおごってくれたりするんです(笑)。ほかにも散歩中に紙袋の底が抜けてしまったことがあったのですが、近くの店のおばさんが飛び出してきて「袋、使いな!」と手渡してくれたり…。タイの良さは、日本に帰って都心に出たときにさらに感じました。日本人は無表情で街を歩いている人が多い。タイの人はみんな笑っていたよな、大変な生活をしている人も、笑顔を忘れていなかったなって。あれから12回はタイに行ったでしょうか。休みが取れなくて、23日で行くときもありました。仕事がきつくても「ももうすぐタイに行けるから頑張ろう!」と思って頑張っていましたね。

―完全にはまってしまったんですね。

 はい(笑)。タイから帰ってきて、タイ料理を食べ歩くようにもなりました。その中でも、吉祥寺の「アムリタ食堂」という店が好きで、週に1回ある休日はいつもそこに行っていました。半日くらいずっと店で本を読んだり…。当時、仕事で行き詰っていたが、店にいるだけで癒やされて英気を養えました。そこで働かないかとも言われたのですが、あまりにも好きすぎて職場にしたくなかったんです。充電する場所として、とっておきたかった。でも結局、縁があって働くことになって…。

■タイ料理店で働き、料理を覚える

―やっと、タイ料理店で働くことになったんですね。

 そこで初めてタイ料理を作りました。でもタイ人の料理人さんがメーンで調理するスタイルだったので、調理補助をしながらいろいろと見て覚えました。ここで1年ほど働く間に今の店をやらないかというお話を頂きました。共同経営者はエスニック料理をやろう言っていたのですが、これからのご時世は「エスニック料理」という広いジャンルではなく、もっと絞り込んだ方がいいだろうと思って。で、せっかくタイにご縁があるのだから、タイ料理屋にしようと決めたんです。

―それから実際のオープンまで、どれくらいかかったんですか?

 3カ月くらいじゃないかな。2007615日に店をオープンするまで、必死でタイ料理を研究しました。ネットやタイ語の料理本からたくさんのレシピを集めて、比べて、ピックアップして、ミックスして、家で何度も試しました。内装は居抜きで、カウンターにはこだわって改装しました。今まで買いためていたタイの雑貨も並べて…。メニューは、開いただけで楽しくなるようにしたかったので手書きにしました。ただのメニュー表ではなくて、「面白そう」「読みたいな」と思われるようなものにしたかったんです。

―ほぼ独学で学んだタイ料理が、今や多くのファンをつかんでいます。いつごろから、こだわりの料理人としての自覚が出てきましたか?

 いやいや…(笑)。今でも常に料理の本を見ているし、もっと知識を増やしたいです。でも、共同経営者と2人で始めた店を201077日から1人で店を切り盛りすることになって、そのときから私はすごく変わったと思いますね。それまでは店の中で黒子に徹して、厨房から出ずに黙々と料理をひたすら作っていました。でも1人になってからオープンになりましたね。そうしたら最高に楽しくなりました。何でも楽しめるようになったんです。

■タイ語を独学で学ぶ

―味についてのこだわりはありますか?

 オープン当初は、本場の味に近づけたいとかたくなに思っていました。でも、上手にできなくて悩んでいたんですが、タイに行って気付いたんです。タイに行っても、おいしい料理もあればおいしくない料理もある。本場と言ってもいろいろだなと。作り手が100人いたら、100通りのレシピがある。最低限のルールさえ守って自分がおいしいと思える味をつくればいいと思えるようになって悩みが吹き飛びました。がっちり教わってないことで、自由に楽しんでつくれているのだと思います。

―「自由」と表現されますが、研究熱心ですよね。

 研究するのが好きなのかもしれません。自分のやり方を追究したいのかも。最近タイ人の子に「これ、本当にタイの味だね。みゆきは本当にタイ人だね」と言われました。前世がタイ人だったのか、タイに生まれるはずが間違って日本に生まれてきちゃったのかというぐらいタイが好きなのでうれしかったです。タイに行っても、タイ語をしゃべっても、気持ちがいいです(笑)。

―タイ語も話せるんですか?

 ええ、日常会話ぐらいは。以前から独学で勉強していたんですが、半年ほど店にタイ人のバイトの子が来てくれた時にタイ語で会話をしていたら飛躍的に上達しました。去年の12月にタイ旅行をしたときは、周りの人が何をしゃべっているか、ほとんど理解できました。そうすると、コミュニケーションがとれて楽しいですよね。タイ語は面白いですよ。例えば、「カオニャオ」という言葉。「カオ」は米、「ニャオ」はネバネバという意味。合わせると「もち米」という意味です。「キーニャオ」は「キー」は人、「ニャオ」と組み合わせると「けちな人」という意味になるんです。言葉の成り立ちや組み合わせが面白いんですよ。タイ語教室をやりたいなとも思っています。

■下北沢のタイ料理店同士、「タイ米を借りる仲」

―楽しんで仕事をされている様子が伝わってきます。

 料理は愛情。それに尽きると私は思っているんです。気持ちが不安定だったり集中力がなかったりすると、味も落ちると思うんです。まずは自分が仕事も人生も楽しまないと。料理は同じレシピ、同じ分量でも、作る人が変われば絶対に違うものになる。自然と気持ちも入ってオリジナルの味になっていくのだと思います。

―連日満員なのではないですか?

 そんなことはないですよ。暇なときは暇です。お客さんが少ないとき、何年か前までは気にしていました。でも、最近は暇だと、掃除してスタッフみんなで遊ぶかって感じ。そうやって楽しくしていると、不思議なものでお客さんが来る。暗くなるとお客さんが逃げてしまう。下北沢には「シアムエラワン」さんなど何店かタイ料理店がありますが、新店ができると友達になりに行っています。タイ料理店同士、ライバルではないのかと言われますけれど、そんなことはありません。みんなと仲良しです。タイ米が足りなくなって借りにいったこともあるぐらい(笑)。

―タイ料理を作れるようになって、タイ語も話せるようになってから、タイの印象は変わりましたか?

 もう、ふるさとですね。充電器みたいなもの。

―これからのビジョンとか、夢は?

 いつかケータリングで全国を回りたいとか海外でも店を開きたいと思ったりもしますが、今のティッチャイが好きなので、しばらくはこの店とこの店で出会えた人をもっと大切にしたいです。店のスタッフや常連さんと、ピュアロードでやっているフリーマーケットで歌を歌ったりすることで、地元の方ともぐっと近づけた感じがします。おいしいものをつくることや、意外で楽しいことをすることで、皆さんにとっての、ホッとする、元気の出る場所になれればいいなと思っています。

【ティッチャイ】
住所:世田谷区代沢5-29-8
電話番号:03-3411-0141

営業時間:水曜~金曜=12時~14時30分、18時~23時
定休:月曜

HP:http://tit-chai.com/

(文責:佐藤智子)

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