吉本興業のピン芸人、ピストジャムです。僕は又吉直樹さんが部長を務める「第一芸人文芸部」という、本について語ったり文章を書いたりする部活動をしています。この特集では、愛してやまない下北沢のすてきな書店を紹介していきたいと思います。

File.2～本屋B&B 

昨年9月末に、下北沢について語る「シモキタナイト」というトークイベントに出演した。出演者は、作家の吉本ばななさんとライターの宮崎智之さんと僕の3人。偉大な共演者に恐縮しつつも、大好きなシモキタについてざっくばらんに語らう時間は楽しかった。

会場も満席で、ときおり起こる笑いに熱気を感じた。最後の質問コーナーでは客席からいろんな質問や感想もいただき、会場全体がひとつになったような、一体感のあるとてもすてきなイベントだった。

その会場が『本屋B&B』（以下B&B）。この書店がすごいのは、週末や特別な記念日だけイベントをおこなっているわけではなく、吉本興業の劇場ばりに365日ずっと毎日イベントをやっているところだ（編集部注　年始は数日間お休み）。

独立系書店の雄。個人書店とかインディペンデント書店とか呼ばれる書店でしかできない動きをB&Bは存分にやっている。

B&Bがシモキタにできたのは2012年。駅前のマクドナルドの裏手にある、1階に『八剣伝』という居酒屋の入ったビルの2階からスタートした。

階段をあがると、踊り場には演劇のフライヤーなどが置かれた黒い棚があり、右手にある白い扉のガラス窓からは店内の様子がうかがえた。中に入ると、カウンターにはビールサーバーが。そのときはまだ、B&Bが「BOOKS & BEER」の略だとは知らなかったから驚いた。

とにかく新鮮だった。本棚にはジャンルわけのタグとかポップもなく、小説や自然科学や旅行やグルメやサブカルなど、本棚を順に見てまわれば、なんとなく蔵書の全体像がつかめる感じとか、本を照らすランプも販売されていたりとか、メニューやテーブルナプキンが置かれた読書兼飲食用の4人がけのテーブルが二つもあったりとか。しかも当時は深夜まで開いていた（編集部注　24時まで営業）。

こんな店、入ったことない。またシモキタにおもしろい店ができた、と高揚した。
　
それから5年後、B&Bはビッグベンビルの地下1階に移転した。サイゼリヤのとなりの『まんがランド』という漫画喫茶があった場所。いま敷地内に踏切のオブジェが設置されているビル。地下2階に老舗ライブハウス『CLUB Que』が入っている建物と言ったほうがわかりやすいかもしれない。

一気にスペースが広がった。蔵書もぐっと増えて、ビールサーバーがあるカウンターは奥になり、壁沿いの本棚以外は棚の下に滑車がついた可動式になっていた。

イベントやる気満々の書店。滑車にそれが表れていた。

たぶん収容人数は100人くらい。移転後すぐに開かれた、いとうせいこうさんの『今夜、笑いの数を数えましょう』というイベントは大盛況だった。

ほかのイベントも、当日券を求めて行ったら完売で入れなかったこともしばしば。ビルの前を通ったとき、地下におりる階段に行列ができているのだけれど、それが『CLUB Que』の列なのか、B&Bの列なのか、わからないほどにぎわっていて、すごい本屋だなと恐れ入った。

そして、2020年。現在の場所、ボーナストラックの2階に再び移転した。

店のスペースはさらに広くなり、2階になったことで明るさが増し、さらに商業施設内の店舗なので入りやすさも格段にあがった。もちろん可動式の本棚も健在。イベント時は、客席の間隔も十分に確保できる広さができた。

2022年11月。まさか自分がB&Bに出演できるとは思ってもみなかった。

50種を超えるバイト体験の中から笑えるエピソードを綴ったエッセイ『こんなにバイトして芸人つづけなあかんか』（新潮社）の刊行記念イベントで、帯を書いていただいた又吉直樹さんと二人で出させていただいた。2回目は、冒頭に書いた「シモキタナイト」。

石の上にも三年というか、シモキタの上にも25年というか。住み続けて本当によかった。

今回、この記事を執筆するにあたってB&Bスタッフの舟喜さんにお話をうかがった。入ってすぐの書籍コーナーのところに、文芸誌『第一芸人文芸部　創刊準備号』を置いてくださっている。ありがたい。

「店のコンセプトは『これからの街の本屋』。これは10年前のオープンから変わらない。何かに特化した本屋というわけではなく、いろんな人に来ていただきたいから、雑多のよさを打ち出している」と舟喜さんは語る。

たしかにそうだ。これは蔵書のジャンルの話だけではなく、ビールが飲めたり、イベントが毎日あったり、普通の書店とはあきらかに違う楽しみかたがここではできる。実際、僕は数年前にB&Bが開催していたカレーフェアで、シモキタのカレー屋『茄子おやじ』と『アンジャリ』の二店舗が出品していた限定Tシャツを買いに自転車をかっ飛ばしたこともあった。雑多のよさ、とはまさにそれだ。なにかしらが誰かに刺さる。

「下北沢に関する書籍コーナーとか、下北沢にまつわる書籍があるのも特徴」とも。これは自身がB&Bを初めて訪れたときに、いいなと思ったポイントでもあるらしい。

「シモキタを拠点に活動している人たちを応援する存在になりたい」と話す舟喜さんは、元スタッフの松井さんとともに『韓国ドラマファンクラブ』というユニットで『私たちの賢い本屋生活』というZINEも制作している。本好きの気持ちだけでなく、書き手の気持ちも理解ある書店員を擁するB&B。これからもシモキタに欠かせない本屋であり続けることは間違いない。

【店舗データ】

本屋B&B
東京都世田谷区代田2-36-15 BONUS TRACK 2F
03-6450-8272
平日12:00～21:00／土日祝日11:00～21:00
※イベントや貸切などで変更の可能性があります