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【シモキタ歴25年の読書芸人ピストジャムおすすめの書店10選】File.3~ヴィレッジヴァンガード下北沢店

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吉本興業のピン芸人、ピストジャムです。僕は又吉直樹さんが部長を務める「第一芸人文芸部」という、本について語ったり文章を書いたりする部活動をしています。この特集では、愛してやまない下北沢のすてきな書店を紹介していきたいと思います。

File.3~ヴィレッジヴァンガード下北沢店

もし「人生で一番通った店は?」と尋ねられたら、僕は迷いなく「ヴィレッジヴァンガード下北沢店」と答える。それほど通い倒している。20代のころなんて、本当に毎日のように通っていた。

なぜそんなに通いまくったか。理由は単純、めちゃくちゃ楽しい店だから。

シモキタは「おもちゃ箱をひっくり返したような街」と形容されることがよくあるけれど、ヴィレッジヴァンガード(以下、ヴィレヴァン)はおもちゃ箱そのものだ。

漏れ聞こえるにぎやかな音楽に釣られて店に一歩足を踏み入れたら、そこはもう不思議の国。お菓子、漫画、CD、雑貨、服、なんでも売っている。しかも、どれも個性的。かわいいものからグロいものまで。目を引くド派手なPOPもたまらない。

いやが応でもテンションが上がる。ちょっとした風邪くらいなら簡単に治してしまうほどのパワーをヴィレヴァンは持っている。

店のキャッチコピーが「遊べる本屋」だと知ったのは、通い始めてしばらく経ってから。納得と同時に驚愕した。ここ本屋だったんだ、と。

実際、僕がヴィレヴァンで買っていたものの多くは生活雑貨や友人へのプレゼントだった。もちろん小説や雑誌や漫画も買っていたけれど、まさか本屋がメインだったなんて思いもしなかった。

又吉直樹さんの自由律俳句集やエッセイや小説を買ったのは、すべてヴィレヴァンだった。昔、又吉さんはこの店の上のマンションに住んでいたことがあったので、僕のなかではそれもあって、勝手にここは又吉さんの聖地だと思っている。

そして、いまその聖地には「第一芸人文芸部」のコーナーもつくっていただいている。又吉さんの作品とともに、部員である僕のエッセイ『こんなにバイトして芸人つづけなあかんか』と後輩のファビアンの小説『きょうも芸の夢をみる』も。これほどうれしいことはない。

普通の書店とは一線を画す魅力を持つヴィレヴァン。その魅力の秘密を知りたくて、今回ヴィレヴァンの次長である長谷川朗さんにお話をうかがった。

下北沢店ならではの特徴やこだわりを尋ねると、長谷川さんの答えは早かった。それは「本棚の数」だと言う。

言われてみれば、そのとおりだ。たしかに下北沢店の棚数はすごい。他店では考えられないほどある。シモキタのヴィレヴァンは迷子になる、とたまに聞くけれど、その迷路をつくっている正体は棚数の多さだった。まるで路地が入り組んだシモキタの街を表現しているかのよう。雑貨やおもちゃが店全体に無数に散りばめられているから強く意識していなかったけれど、蔵書の量も圧倒的だ。

そして、こだわりは「攻めたマニアックな本があること」。これも体感してきたから非常によくわかる。

TBSの人気番組『クレイジージャーニー』で丸山ゴンザレスさん(危険地帯ジャーナリスト)や佐藤健寿さん(写真家)は一躍有名になったけれど、僕が二人を初めて知ったのはこの店だった。それもその番組が始まるずいぶん前に。

丸山ゴンザレスさんの『アジア「罰当たり」旅行』という文庫や佐藤健寿さんの『奇界遺産』という写真集は、当時ほかの本屋では目にしたことがなかった。こういう攻めた選書を店のこだわりとしてやっていると聞くと、ますます通いたくなる。自分が知らない本や映画や音楽を教えてくれる先輩の家に遊びにいきたくなる、あの感覚。

下北沢店は、かつてシモキタの老舗中華料理店『新雪園』とのコラボ商品をつくったり、最近では『珉亭』のグッズを販売したりもしている。こういったシモキタならではの商品が並ぶのも、地元から愛されている証拠だ。

僕は水木しげる先生が好きで、水木しげる作品をむさぼるようにヴィレヴァンで買っていたことを長谷川さんに伝えた。すると、長谷川さんから「下北沢店で、一番売れている水木しげる作品はなんだと思います?」と逆に訊かれた。

これは絶対にはずせない。25年通ってきた自負がある。一瞬考えて、僕は「ヒットラー」と答えた。



「正解です」。思わず「おっっしゃーっ!」とガッツポーズして叫んでしまった。長谷川さんから「さすがです。ヴィレヴァンテスト、1問正解です」と言われて、長いシモキタ生活が報われた気がしたし、いつかこのヴィレヴァンテストを全問正解したいと思った。

近年シモキタを訪れる海外からの旅行者がぐんと増えた。この取材の日も、開店前から店の前には外国人の方がいまかいまかとオープンを待ちわびていて、ヴィレヴァンの認知度の高さに驚かされた。

外国人観光客の方がよく購入する商品はステッカーらしい。お土産としての手軽さもあるのだろう、と長谷川さんは分析する。

あと、アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』関連の商品も人気だという。たしかに自分も海外に行って、好きなドラマや映画の舞台になった街を訪れたときにヴィレヴァンみたいな店があったら喜んでグッズを買いまくるだろう。

でも、きっとその外国人たちもヴィレヴァンが実は本屋だと知ったら腰を抜かすだろう。そしたら、僕がこの店は下北沢という街を体現した、はちゃめちゃな本屋なんだと説明しよう。ヴィレヴァンは、シモキタのシンボルと言っても過言ではないから。

【店舗データ】

ヴィレッジヴァンガード下北沢店
東京都世田谷区北沢2-10-15マルシェ下北沢1F
03-3460-6135
平日11:00~23:00

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