吉本興業のピン芸人、ピストジャムです。僕は又吉直樹さんが部長を務める「第一芸人文芸部」という、本について語ったり文章を書いたりする部活動をしています。この特集では、愛してやまない下北沢のすてきな書店を紹介していきたいと思います。
File.5~古書明日
2020年4月、『日記屋 月日』は、下北沢駅と世田谷代田駅を結ぶ小田急線の線路跡地にできたBONUS TRACKの一角に誕生した。僕は開店したばかりのころにうかがったことがあるのだが、日記専門店という珍しい形態の書店に非常に興味を惹かれた。
『月日』が入った長屋のような建物の壁を見上げると、二階部分の窓際にそっと「月 日()」の文字。初めて訪れるのに懐かしい気持ちになる。小学校の黒板で同じ文字を見た記憶が甦る。
五坪のこじんまりとした店内には新刊、古書問わず、ZINEなどの日記本がところ狭しと陳列されていた。日記本だけでこんなにも多彩な品揃えがあるんだと圧倒される。
オリジナルグッズも多数あり、『月 日()』と彫られた判子は店名のスタンプでもあり、日記の日付記入にも使用できるアイデア商品で、ノスタルジックなかわいらしさを醸し出している。
店内にはコーヒースタンドも併設されていて、店内カウンターと歩道に面した窓からコーヒーやビールが購入できる。散策途中に飲みものだけを楽しむこともできるし、飲みながら店内の書架を眺めることもできるのだ。
下北沢らしい個性的でかわいい本屋。初めて訪れてからもう五年経つが、BONUS TRACKに立ち寄るたびに、月日でコーヒーをいただいては、どんな本があるか本棚をのぞいていたので、今回取材させてもらえることがとても楽しみだった。
取材を受けてくださったのは店長の栗本さん。2010年代から文学フリマなどで日記本の販売が少しずつ増えているのを目にして、日記熱の高まりを予感し、日記の「読む」「書く」という魅力を伝える書店は需要があるのではないかと考え、店主・内沼晋太郎さんが創業した。しかも、偶然ながら開店時期がコロナ禍に重なったことで、ブログやSNSで日記の書き手が増え、日記を書くこと、読むことが以前にも増して、よりなじみ深い行為になったことが月日にとってはプラスに働いたとも。
月日では、日記をつけるワークショップや年に二回、4月と12月に開催される「日記祭」というイベントなど、日記好きな人たちの集う場も実現している。日記祭では自分が書いた日記を、本やZINEにして販売することができるので、日記の「読む」「書く」という魅力に加えて日記本を「つくる」という面白さも体験させてくれる。 栗本さんの「日記好きな人たちが集まれる場所になれば」という言葉が印象的だった。日記は本来、個人的なものである。しかし、それは意図せず、時を経れば史実を表す資料にも変化するし、仲間ができれば読みものに変わる。
日記の書き方は人それぞれでいい。誰にも読ませない日記でもいいし、読まれることを前提に書く日記でもいい。日記祭で販売されるいろんな方の日記を読んで、純粋に読みものとして楽しんだり、自分の日記の書き方の参考にしたり、日記の世界は仲間がいれば無限に広がっていくのだと、栗本さんのお話を聞いて知ることができた。
僕も十代から二十代にかけて、十年近く日記を書いた経験があったので、そのころに月日と出会いたかったなと強く思った。ここには日記を書きたくさせるグッズがたくさんあるし、何より日記好きの仲間が大勢集まってくる。日記は個人的な作業だからこそ、日記をつけている人たちからしたら、ほかにも同志がいると思えることほど心強いことはない。
月日は書店という枠を越えて、日記を通して誰もが書く楽しみ、つくる楽しみを等しく味わえることを教えてくれる。そこには初心者もベテランもないし、正解不正解もない。自由に表現する楽しさのみがある。
日記の世界の面白さと奥深さを知ると、改めていろんな日記を読んでみたいと思ったし、自分も書いてみたいと思った。まずはコーヒー片手に、選書された日記本を眺めて、自分の日記のタイトルから考えることにしよう。
【店舗データ】
日記屋 月日
東京都世田谷区代田2-36-12 SOHO9 BONUS TRACK
8:00~19:00
不定休