吉本興業のピン芸人、ピストジャムです。僕は又吉直樹さんが部長を務める「第一芸人文芸部」という、本について語ったり文章を書いたりする部活動をしています。この特集では、愛してやまない下北沢のすてきな書店を紹介していきたいと思います。
File.1~古書ビビビ
2005年2月、鈴なり横丁に突然古本屋ができた。鈴なり横丁は、いまでもそうだがシモキタのランドマーク的な存在で、いかにもシモキタらしい雑多な場所だ。
1階にはスナックやバーが10軒以上ひしめき、2階には劇場が併設されている。当時は、2階にシネマ下北沢という映画館まであった。そんなところに、いきなり登場したのが『古書ビビビ』だった。
そのころ、僕はまさに鈴なり横丁のバーでバイトをしていた。なので、ビビビにはよくバーの開店前に立ち寄った。
10坪ほどの狭い店内には、店主のこだわりを感じる古書がずらりと並んでいた。目を引いたのは漫画のラインナップ。水木しげる先生、楳図かずお先生、日野日出志先生。自分が好きな漫画家の作品ばかり。しかも、本屋では売っていない昔のデザインの単行本が手に取って見れたのには興奮した。
ビビビという店名にも親近感がわいた。『ゲゲゲの鬼太郎』が好きだったこともあり、ビビビという名は、きっとねずみ男に由来しているんだろうと思った(ねずみ男の通称は「ビビビのねずみ男」という)。
1,000円、いや1,500円まで。予算を決めてバイト前にビビビで漫画や文庫本を買うのが習慣になった。買った本をバイト中に読み、稼いだバイト代でまた古本を買う生活。お金に困ったときに、本を売りに行ったこともあった。あのころ、僕は鈴なり横丁の中だけでお金を循環させていた。
そうこうしているうちに、ビビビは移転した。移転したと言っても、数十メートル。同じ茶沢通り沿いの、いまの場所で安心した。
今回、この記事を書くにあたって店主の馬場幸治さんに取材させていただいた。18年前から馬場さんの顔は知っているのに、話すのは初めて。ビビビは又吉さんも足しげく通う店で、今回の取材のことを事前に伝えたら「馬場さんによろしく」と言っていたので、ちょっと緊張してしまう。
しかし、店を入ってすぐのところに、先日出版した文芸誌『第一芸人文芸部 創刊準備号』を置いてくださっていてテンションがあがった。こんなにうれしいことはない。馬場さんに応援してもらっているんだと思うと一気にリラックスできた。
まず最初に、店名の由来を尋ねた。「お客さんが店を訪れた際に、ビビビと衝撃を受けたり、ときめきを感じてほしいという思いからつけた」ということだった。ねずみ男は全然関係なかった。
現在の蔵書のバランスをうかがうと「だんだん変わってきて、どんどん街に合った感じになってきた。音楽、映画、美術、エンタメ、サブカル、漫画などから、かたい内容の本までなんでも。これは自分が強化したわけではなく、いろんなお客様から買い取った本を販売していたら、自然と多様性のある品揃えになっていった」らしい。たしかに、ビビビの書籍群はシモキタそのもの。シモキタの住人たちが売りにくるさまざまな本によって、ビビビの個性がより一層パワーアップしていったのだ。
店づくりで意識しているポイントを訊いて驚いたのだが、一番は「店の出やすさ」だと言う。「ぱっと入って、さっと出られる店。何も買わなくても、お客様が気まずい思いをしなくていい、気軽な感じを目指している」と語る。
これはしびれた。自分も過去に経験があるのだが、個人経営の古本屋は店主のプレッシャーが強いところが多い。こっちが勝手に思っているだけかもしれないが、好きな品揃えの店だからまた来たいんだけど、今日はとくにほしい本がないんだよな、でも何も買わずに出たら気まずいから、別にいらないんだけど100円コーナーの文庫本だけ買って帰るか、みたいなことを何度もした。
きっと馬場さんも同じような経験があるのだろう。古書店好きの店主だからこその配慮に感動し、さらにビビビのことが好きになった。
最後に、馬場さんに好きなシモキタの飲食店を尋ねたら即答だった。『旧ヤム邸 シモキタ荘』。ここは大阪からやってきたスパイスカレーの名店。よくテイクアウトして残業中に食べるらしい。
本好きがカレー好きなのか、カレー好きが本好きなのか。どちらにせよ、馬場さんと好きなものが同じで、またうれしくなった。
【店舗データ】
古書ビビビ
東京都世田谷区北沢1丁目40-8 土屋ビル1階
03-3467-0085
12時~20時(火曜定休)