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【シモキタ歴24年のカレー激ハマリ芸人ピストジャムが愛してやまない下北沢カレー10選】File.2~DAS CURRY KIMURA RESTAURANT(ダスカレーキムラレストラン)

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吉本興業のピン芸人、ピストジャムです。僕は、20歳のころにシモキタに越して来ました。カレー好きの僕にとっては、この街は天国です。

この特集では、僕が全責任を持って推薦する、美味しいカレーが食べられる店を紹介していきたいと思います。

File.2~DAS CURRY KIMURA RESTAURANT(ダスカレーキムラレストラン)


欧風カレーのビーフカレー(1,200円)。ほどよいスパイスの刺激と玉ねぎのあまみがからみあう。インドと欧風のハイブリッドカレーという印象

サニーさんと初めて会ったのは、シモキタのはずれにある淡島通り沿いのバーだった。その店にはいろんな人がやってくる。イタリア料理屋のコック、会社経営者、弁護士、海外転勤でやってきた外国人、有名ミュージシャン。

ほとんどの客がひとりで飲みに来る。しかし、カウンターに座るとマスターがとなりの客を紹介してくれるので、行くたびにどんどん知り合いが増えていく。

きっぷがいいマスターと愉快な仲間たち。みな帰宅前の一杯をそこで楽しんでいる。

「おお、サニー」

マスターの声に反応してドアのほうを振り返ると、笑顔の外国人が。

「サニーに会うの初めて? 池ノ上でカレー屋やってる。めちゃくちゃうまいよ。インド人」

当人はまだ席にも座っていないのに、さっそくマスターが紹介してくれる。僕のとなりにサニーさんが座る。

「ピストジャムです。吉本で芸人やってます」

「そうなんだ。うち結構芸能人来るよ。店、来たことある? 超おいしいよ。来たことなかったら一回来て。ランチもやってる。わかる? 場所? あ、先にお酒頼まないとね。すいません、ビールください」


流暢すぎる。たぶん僕より日本語がうまい。

「僕、カレー好きなんで行きます」

「そうなんだ。うちのカレー食べたら、ほかのカレー食べられないよ。今日も千葉から食べに来たって言うお客さんがいたんですよ。うちのカレーは玉ねぎを毎日10キロ使ってるんですよ。野菜を煮込むときにスパイスも入れて煮込んでるから、味が全然違う。うちは欧風カレーとインドカレーがあるんですけど、ベースは別々でつくってるんですよ。それを一日寝かして出してるから、味がしっかりしみ込んでておいしいですよ。辛さの調節もできるし。辛いの大丈夫?」

「大丈夫です」

「じゃ、中辛かな。中辛でも結構辛いけどね。スパイスが効いてるから。インドカレーには、クミン、コリアンダー、ガラムマサラ、ローリエ、ブラックペッパー、パプリカとか入ってて、欧風カレーはカルダモンとかクローブとか、あとちょっとだけ醤油が入ってるんですよ。全部日本の食材で、日本人の好みに合うようにしてるから。僕は日本のイタリアン、フレンチ、中華、洋食屋で28年働いたんですよ。だから、日本人の好みは全部わかる。カレー屋を開くって決めてから、56軒のカレー屋に行って食べて勉強したんですよ。ラッシーもおいしいよ」


笑いながら、サニーさんが僕の肩をたたく。

サニーさんの迫力に圧倒されながらも、スケジュールを確認する。明日、昼なら大丈夫だ。行ってみよう。

店は、井の頭線池ノ上駅から徒歩1分のところだった。僕は、10年前までこのすぐ近くに住んでいた。池ノ上駅を出て右側の、北沢1丁目の住人だった。

ここは駅を出て左側なので、ほとんど来る機会がなかった。北沢1丁目はシモキタまで歩いて数分なので、食事する際はいつもシモキタに出ていた。

看板には『DAS CURRY KIMURA RESTAURANT』と書いてあった。長い店名だ。RED HOT CHILI PEPPERSみたい。

しかも、見逃せない気になるところがある。「KIMURA」。「KIMURA RESTAURANT」とは、いったいどういうことだ。

サニーさんは、木村サニーという名前なんだろうか? それとも、木村さんというシェフが別にいてて、そのかたが開いた店で一緒に働いているということなのか? もしくは、先代の名前を継いで屋号を残しているのだろうか。

まさか。よからぬ考えが頭をよぎる。

そんなことはありえない。昨晩あれほど高い熱量でカレーづくりについて語っていたし、何度も「うちの店」「うちのカレー」と言っていた。

でも、看板にはサニーさんの名前が一つも見あたらない。もしかしたらサニーさんは、ただのバイトなのかもしれない。

サニーさんはひとりで働いていた。

「こんにちは。さっそく来ました」

声をかけると、笑顔で迎えてくれた。

少しほっとする。覚えられていなかったらどうしようかと思った。

「何にします?」

インドカレーを食べようと決めていたけれど、一応訊いてみる。

「インドカレーと欧風カレー、どっちがおすすめですか?」

すると、

「欧風カレーかな」

カウンターの椅子からずり落ちそうになった。カレーは、インド人がつくるインドカレーが一番だと思っていた。

「どっちもおいしいけどね」

もう遅い。インド人がおすすめする欧風カレーとは、いったいどんなものなのか食べてみたくなった。

ランチセットにも欧風カレーで牛バラカレーというのがあったが、単品でビーフカレーを注文した。

「ラッシーもおいしいよ」

そうだった。欧風カレーをすすめられた衝撃で忘れてしまっていた。
プレーンラッシーも頼む。ラッシーも自家製だと言う。

それにしても、サニーさんはセールストークが上手だ。昨日の「うちのカレー」をプレゼンする勢いあるトークもすごかったが、さっきの「ラッシーもおいしいよ」は「ご一緒にポテトもいかがですか?」以上のかろやかさだった。

芸人顔負けの緩急を使い分けたトーク。勉強になる。


自家製のマンゴーラッシー(650円)。絶妙な塩加減で甘さは控えめ。カレーにとてもよくあう。胃腸の調子を整える効果もあるという。
ラッシーは、濃厚なのに飲みやすく、絶妙な塩加減でさっぱりしていた。あまさひかえめなので、カレーとの相性はぴったりだろう。もう、半分飲んでしまった。
キッチンから、スパイシーな香りがただよってくる。食欲が刺激される。

ほどなくして待望の欧風ビーフカレーが運ばれてきた。白い皿にルーとターメリックライスが半々に盛られていて、ライスの上には玉ねぎのアチャールが載せられている。

ターメリックライスの欧風カレーは意外に少ない。楽しみだ。
なんでいままで知らなかったんだろう。後悔した。

ルーはスパイスだけではなく、玉ねぎのあまみもしっかり感じられて、コクがすごい。肉もスパイスでうまみがさらに引き立てられている。

ターメリックライスもアチャールもルーに合い、カレーとして一体感がある。サニーさんのみごとなスパイス遣いの成せる技だ。

ただ、これは欧風カレーなんだろうか。そう言われればそうなのかもしれないが、こんな味わいの欧風カレーは食べたことがない。

インドカレーと欧風カレーのいいとこどりのハイブリッドカレー。サニーさんにしかつくれないオリジナルカレーだ。

あっと言う間に完食した。すでに食べている途中に決めていたのだが、続けてインドカレーも注文した。

本当はとんこつラーメンの替え玉のように、食べている途中から頼みたかった。でも、さすがにそれはわんぱくすぎるだろうと思って我慢した。

こんなこと初めてだ。カレー屋で二杯頼むなんて。

「たまにそういう人いるよ。両方食べたくなって、二杯食べる人いるから大丈夫」

サニーさんは笑う。

カレー好きなら気になるだろう。欧風カレーがこんな感じだったのなら、インドカレーはどんな感じなのか。

インドカレーは、チキンにした。辛さは、欧風ビーフと同じく中辛。

残りのラッシーを飲んで待つ。このタイミングでソルティーなラッシーで口直しできるのは最高だ。

調理するサニーさんに、店名の件を尋ねる。「ダス」はサニーさんの名字で、「キムラ」はサニーさんの妻の名字だと言う。

ちゃんとサニーさんの名前が入っていた。サニーさんはバイトじゃなかった。オーナーシェフだ。


インドカレーのチキンカレー(1,050円)。少し強めのスパイスの香りと刺激が、玉ねぎのあまみのあとに口の中に複雑に広がっていく。
インドカレーも、欧風カレーと同じ盛り付けで運ばれてきた。見た目だけでは、ほとんど違いがわからない。ルーも濃厚だ。

欧風カレーよりもスパイスの香りと刺激が強く感じられる。玉ねぎのあまみが口に広がったあとに、スパイスが複雑に押し寄せてくる。

これも、やはり一般的なインドカレーとはひと味違う。欧風カレーもそうだったが、サニーさんのカレーを的確にジャンル分けするのは難しい。言葉がないから欧風カレー、インドカレーと名乗っているだけで、もはやそういったジャンルを飛び越えている。

二杯目も完食した。口の中に残るスパイスの余韻を感じながら、改めてメニュー表を見る。

インドカレー10種類、欧風カレーは15種類もあった。訊くと、それぞれのカレーで使うスパイスがすべて異なると言う。酒の種類も豊富で、料理もアラカルトで頼めるらしい。

これは困った。今度は、昼と夜、一日に二回行く可能性が出てきた。


著者と店主のサニーさん(右)。イタリアン、フレンチ、中華、洋食屋で28年働いて、日本人の味覚を研究し、このカレーを開発したという。

【店舗データ】

DAS CURRY KIMURA RESTAURANT
東京都世田谷区代沢2-42-8
03-3411-1009
11:00~15:00
17:00~23:00
月曜日定休
※営業時間・定休日は変更となる場合がございますので、ご来店前に店舗にご確認ください
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