吉本興業のピン芸人、ピストジャムです。僕は、20歳のころにシモキタに越して来ました。カレー好きの僕にとっては、この街は天国です。
この特集では、僕が全責任を持って推薦する、美味しいカレーが食べられる店を紹介していきたいと思います。
File.8~キッチン水谷
シモキタに新星が現れた。その名は、キッチン水谷。
店主も若い。まだ25歳。
店主の水谷さんは、下高井戸のバー『恋々風塵』での間借りカレーを経て、今年2月に店を構えた。場所は、『つくね屋ロック』があったところ。
内装は、『つくね屋ロック』からそのまま引き継いでいて昭和レトロ感満載。70年代のアイドルのレコードや、映画のポスター、雑誌の切り抜き、メンコなどが壁じゅうにびっしりと飾られている。
使われていないけれど、昭和の家庭にあった古い炊飯器や扇風機なども置いてある。カウンター奥にある二つのテーブル席のクロスも、昭和生まれの僕からするとどこかで見たことのあるようななつかしい柄。
それらの昭和グッズと、若い店主のギャップがおもしろい。昭和の時代をなつかしんで5、60代のかたがやっているのならわかる。
でも、ここはそういうわけではない。この店でカレーを食べていると、ゆがんだ時空の狭間で営業している不思議なカレー屋に迷い込んでしまったような気になる。
僕が『キッチン水谷』のカレーを初めて食べたのは2月頭。まだプレオープンのときだった。
『つくね屋ロック』のあとにカレー屋ができた驚きと、店先の立て看板に「23時ラストオーダー」の文字を見つけてうれしくなった。遅い時間にカレーを食べられる店が減ってきていると感じていたので、これは食べてみないとな、と思い入店した。
3種盛りをオーダーしたのだが、おいしくてあっと言う間に完食した。あまりに一瞬で食べ切ってしまったので、その二日後あのカレーは本当においしかったのか、と思い再訪した。
注文は一昨日と同じく3種盛り。味わいながら食べたつもりだったけれど、また秒で完食してしまった。
プレオープン中に2回も行ったカレー屋は、あとにも先にもキッチン水谷だけだ。そして、その数週間後にまたあれがやってきた。
あのカレーは本当においしかったのか? そう思うと無性に食べたくなり、気がつくと家を飛び出して自転車で店に向かっていた。
3回目の『キッチン水谷』。プレオープンは終わり、この前まではなかった「気分は昭和」と書かれた大きな看板がビルに設置されていた。
ドアを開けて中に入ろうとすると、水谷さんが申し訳なさそうな表情で言った。
「すいません。昼のぶん、完売しちゃいました」
絶望と同時に、わかったことが一つ。キッチン水谷のカレーは、間違いなくおいしかったのだ。
疑う余地なんていっさいなかった。その証拠に、まだ本オープンして間もないのに昼の部のカレーが完売している。
これは、まぎれもなくすでに多数のファンを獲得しているということだ。もちろん、僕もそのファンのひとり。
4回目の来訪は、この下北沢経済新聞の取材でお邪魔させてもらった。前回売り切れだと聞いたときに、あのおいしさはまぼろしではなかったんだと確信し、帰り際に取材を申し込んだ。
「スパイスキーマカレー(鶏)」は、鶏ひき肉のうまみと玉ねぎの甘みがしっかり感じられてコクがある。カルダモンやコリアンダーなどのスパイスも効いていて、その香りが食欲をそそる。
「やさしいポークビンダルーカレー」は、名前のとおり辛みは少なく、辛いのが苦手なかたでも心配ない。ほどよい酸味で、下味のついた大ぶりな豚肩ロースは食べごたえばっちりだ。
「ラムカレー」のラム肉も大きい。スパイスの香りとラム肉の風味がマッチして、クセになる味わい。こんなにごろごろのラム肉をほおばって食べられるなんてラム好きにはたまらない。
水谷さんにカレーをつくり始めたきっかけをうかがうと、コロナ禍のステイホームだと言う。当時ルームシェアをしていたので大きなキッチンがあり、そこでスパイスを使ったカレーをつくろうと思い立ったらしい。
多くのカレー屋を食べ歩いた経験と水谷さんの料理センスがなければ、こんなにおいしいカレーは簡単につくれない。ましてや、それが高じてほんの数年で店を構えるまでに至るとは、そのとき本人も思っていなかっただろう。
キッチン水谷の夜の部は、カレーだけではなく「本日のアテ」も楽しめる「飲めるカレー屋」に変身する。水谷さんが腕をふるった、カレー以外の料理も楽しみで仕方ない。
【店舗データ】
キッチン水谷
東京都世田谷区北沢2-33-6 奥田ビル 1F
平日11:30~15:00 18:00~23:30
土日祝11:30~15:00 17:00~23:30
月火定休日
※最新情報はInstagram(@kitchenmizutani)をご確認ください。