下北沢で書店「フィクショネス」(世田谷区北沢2、TEL 03-5430-6352)を営む作家・藤谷治さんのチェロが見つかり、5月13日に警視庁北沢署から手渡された。3月27日に盗難被害に遭い、同署に被害届を提出していた。
5月7日に発売された藤谷さんの新刊「ぼくらのひみつ」(早川書房)
チェロは1854年ドイツ製で、藤谷さんが音楽専門高校に通っていたころから愛用していたもの。同店からケースごと盗まれていた。容疑者は同店に客として訪れたことがあり、下北沢南口商店街の防犯カメラにもチェロを運ぶ様子が映っていたという。
事件当初から藤谷さんはミクシィやツイッターで情報提供を呼び掛けていた。ミクシィのコミュニティー「チェロが好き」で、藤谷さん自身が「チェロが盗まれました」というトピックスを立てたところ、数日で100件近い励ましのコメントが書き込まれた。4月上旬になってコミュニティー参加者から「似た楽器がネットオークションに出品されている」という情報が藤谷さんに届けられ、確認したところ、盗難されていたチェロとわかった。盗難後に楽器店に売られ、楽器店からネットオークションに出品されていたという。捜査が続いていたため公表は伏せられ、チェロも同署で約1カ月間保管されていた。
チェロが手元に戻ってすぐコミュニティーに「チェロが見つかりました」と報告した藤谷さん。「良かったですね」「ずっと気がかりでした」などの書き込みが相次いだ。藤谷さんは「被害に遭ったのは災難だったが、結果的には良いことの方が多かった。一つは見ず知らずの多くの人に慰めてもらったこと。ネット上の書き込みがこんなに支えになるとは思わなかった。もう一つは、チェロを盗品と知らずに買い取った楽器店の方が丁寧に扱ってくださり、とても良い状態で戻ってきたこと。3月4月は天候の悪い日が多く、路上に捨てられた場合のことを考えていたので、本当に良かった」と笑顔を見せた。
今年の「本屋大賞」で7位となった藤谷さんの長編三部作「船に乗れ!」(ジャイブ)にも、このチェロが登場している。藤谷さんは「手元に戻ってきたのを機に、これからはさらに本腰を入れて練習しようと思っている。今までは弾ける曲や簡単な曲ばかり弾いてきたが、この楽器はもっとたくさんの曲を鳴らすことができるのだから」と話している。