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インタビュー2009-07-13

下北沢からニューヨークスタイルのコーヒーを
日本人バリスタ、田中勝幸さんの挑戦

 下北沢には大手飲食店が展開するチェーン店以外にも、個性的なカフェが多く存在する。7月4日に一番街商店街にオープンしたエスプレッソバー「BEAR POND ESPRSSO(ベア・ポンド・エスプレッソ)」も、そのうちの一つ。オーナーを務める田中勝幸さんは昨年、ニューヨーク・タイムスで「洗練された味覚を持つ男」として紹介されたバリスタだ。田中さんが自分の店を開く場所として下北沢を選んだ理由とは?

徹底したトレーニングののち、バリスタへ転身

―簡単にご経歴を教えてください。

田中 大学を卒業後、日本の広告代理店でしばらく働きました。その後、海外留学を経て、ニューヨークの広告代理店で勤務。それから、流通サービスを行う「FedEx(フェデックス)」という会社で在宅勤務をすることになりました。

―バリスタを目指したきっかけは?

田中 当時はちょうど、ニューヨークにプレミアムコーヒーよりもランクの高い、スペシャルティコーヒーと呼ばれるコーヒーが伝わってきたころ。在宅勤務をしていたある日、愛犬・小春子(コハルコ)と散歩をしているときに、スペシャルコーヒーに初めて出会って…。スペシャルティコーヒーならではの苦みとシトラスに似た香りに魅了されました。

―衝撃の出会いだったのですね。

田中 仕事の関係でコーヒー豆に関する輸入知識を持っていたことも関係あると思います。その後、訪れた店で働くバリスタたちのスペシャリティコーヒーへの情熱に魅了され、彼らが開く講座に参加したことをきっかけに、トレーニングを始めました。2年間徹底したトレーニングを積み、「カウンターカルチャーコーヒー・バリスタ認定証」を取得しました。

ニューヨークの味を日本へ

―「カウンターカルチャーコーヒー・バリスタ認定証」を取得後は?

田中 バリスタに専念したいと思い、「FedEx」を退社しました。その後、コーヒー店「Gimme!(ギンミ)」のマンハッタン店でバリスタとして活躍しました。同時に、クオリティー・スペシャリスト(品質管理者)としてテイスティングにも参加することに。「シアトルより10年も遅れている」とか「おいしくない」といわれていたニューヨークのスペシャリティコーヒーを変えようと、2001年からほかのバリスタたちとともにさまざまな味を追求し始めました。そして、現在の「ニューヨークスタイル」が誕生したのです。

―「ニューヨークスタイル」には、どのような特徴があるのでしょうか。

田中 健康志向が高いニューヨークでは、砂糖をあまり使用しません。そのため、エスプレッソ・カプチーノでも砂糖を使用せず、ミルクの温度によって甘みを出す「ミルクケミストリー」と呼ばれる手法を使っています。また、ニューヨークスタイルでエスプレッソを扱う店のほとんどがフードメニューを扱っていません。つまり、カフェスタイルではないのです。「コーヒーハウス」と呼ばれるほど、コーヒーに特化した店になっています。

―こだわりの末に、コーヒーに特化することになったということですね。

田中 おいしいエスプレッソを作るには、豆の焙煎とともにエスプレッソマシンを微調整し、安定した風味を出すことが必要です。常に味を調節するため、エスプレッソがカップへ抽出されていくスピードを見張っていなければなりません。ほかにも1日2回マシンの設定を変更したり、お湯の温度を確認したり……。バリスタは1日中、エスプレッソマシンにつきっきり状態になるので、カフェのように「空間や雰囲気を楽しんでもらう」スタイルは難しくなります。

―ニューヨークスタイルと日本のコーヒーの違いは?

田中 ニューヨークのスペシャリティコーヒーが「そば」とするならば、日本のコーヒーは「うどん」。種類がまったく違います。そのため、比べようがないのです。わたしは「ニューヨークのスペシャルティコーヒーを日本で一番にしたい」「日本のコーヒー文化を変えたい」と思っているわけではありません。あくまでもニューヨークの味を日本に伝えたいと思っているんですよ。

ニューヨークを思い出す下北沢で

―なぜ、下北沢で「ベア・ポンド・エスプレッソ」を開店しようと思ったのですか。

田中 アメリカの再入国許可証を取得して20年ぶりに日本に戻ってきたとき、友人に頼んでオススメの場所を5カ所ほど歩き回りました。そのときに訪れた下北沢が、ニューヨークスタイルのスペシャリティコーヒーの出発点であるイーストビレッジに雰囲気がとてもよく似ていたのです。庶民的な店があって、若者だけでなく子どもや高齢者がいて……。ニューヨーク独自のスペシャリティコーヒー文化を高めようと、バリスタたちが情熱を注いだあの頃と同じように、下北沢からニューヨークの味を発信したいと思ったんです。

―こちらはもともと、60年間営業を続けてきた老舗駄菓子屋「大月商店」があった場所。大月商店だったころのスタイルをそのまま使っているとのことですが。

田中 ニューヨークでは「古きものから新しきをつくる」という言葉があります。大月商店だったころの60年間を生かし、さらに新しいものを生み出していきたいという思いから内装にはほとんど手を加えませんでした。

―店内の内装はとてもシンプルですね。

田中 わたしにとって、店へ来てくれる人たちが最高の「オブジェ」。お客様が来てくれることで初めて、店内が彩られると思っているんです。となると、ほかの余計な飾りは必要ないでしょう。

―最後に、これからについて一言お願いします。

田中 ニューヨークスタイルのスペシャリティコーヒーを確立することに5年を要しました。日本にスペシャリティコーヒーがなじむのにも5~6年はかかると思っています。いや、日本のコーヒー文化は特殊なのでもう少し長くかかるかもしれません。それでもチャレンジしていく姿を、下北沢の人たちに見ていてもらいたいですね。

<プロフィール>
田中勝幸さん。7月4日にオープンした「ベア・ポンド・エスプレッソ」オーナー。マンハッタンの「Gimme!」などでバリスタ、クオリティー・スペシャリストとして活躍。昨年ニューヨーク・タイムスで「洗練された味覚を持つ男」として紹介された。

(文責:吉住夏樹/下北沢経済新聞)

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