飯田橋・神楽坂社会保険労務士法人(東京都千代田区 代表:特定社会保険労務士 川口正倫)は、従業員30〜300名の企業270社を対象に、「第2回 人的資本・労務リスク調査2026秋―女性活躍と仕事・育児の両立に関する企業実態調査―」を実施しました。
今回の調査では、女性管理職の登用、男女間賃金差異、男性の育児休業、仕事と育児の両立支援、さらに育児休業や短時間勤務を利用する従業員を支える周囲の社員への影響まで調査しました。
その結果、女性管理職が「ゼロ」または「10%未満」の企業は61.9%に達しました。一方で、「女性管理職を積極的に、またはある程度増やしたい」とする割合は、女性管理職比率が低い企業でも高い企業でも、ほぼ45%で変わりませんでした。
つまり、女性管理職登用を左右しているのは、経営側の「増やしたい」という意向だけではなく、候補者育成、キャリア形成、評価制度、柔軟な働き方などを実際の組織運営にどこまで落とし込めているかである可能性が浮かび上がりました。

調査結果のポイント
- 61.9%:女性管理職がゼロまたは10%未満
- 女性管理職を「増やしたい」割合は、女性管理職比率が低い企業45.5%、10%以上の企業45.9%とほぼ同水準
- 女性管理職ゼロ・10%未満企業では、42.5%が女性活躍施策を「特に実施していない」
- 女性管理職10%以上企業では、「特に実施していない」は13.3%
- 女性管理職を増やす最大の課題は「管理職候補となる女性社員が少ない」45.9%
- 育休・短時間勤務で「周囲の社員の負担が増えている」は50.4%
女性管理職ゼロ・10%未満が61.9%
女性管理職が「いない」と回答した企業は31.5%、「10%未満」は30.4%で、合計61.9%となりました。
一方、女性管理職比率が10%以上の企業は36.3%でした。
さらに、女性従業員比率が30%以上の企業115社に絞っても、女性管理職がゼロまたは10%未満の企業は33.9%存在しました。
女性社員の採用や在籍が進んだからといって、そのまま管理職登用につながるわけではありません。
今回の結果からは、「女性を採用すること」と「女性が管理職として活躍すること」の間に、もう一段階の課題が存在していることがうかがえます。

女性管理職比率の分布(n=270)
「増やしたい」という意向は、女性管理職比率の高低でほぼ変わらない
今回の調査で特に注目したのが、「女性管理職を増やしたい」という企業側の意向と、実際の女性管理職比率との関係です。
女性管理職がゼロまたは10%未満の企業で、「女性管理職を積極的に/ある程度増やしたい」と回答した割合は45.5%でした。
一方、女性管理職比率10%以上の企業でも45.9%でした。
両者には、ほとんど差がありません。
つまり、「女性管理職を増やしたいと思っている企業ほど、実際に女性管理職が多い」という単純な関係にはなっていません。
では、どこに違いがあるのでしょうか。
差が見られたのは「意向」ではなく「実装」
女性管理職がゼロまたは10%未満の企業では、42.5%が「女性活躍施策を特に実施していない」と回答しました。
これに対し、女性管理職比率10%以上の企業では13.3%でした。
また、男女間賃金差異を「算出し、公表している」割合も、女性管理職比率が低い企業では7.2%、10%以上の企業では19.4%と差がみられました。
今回の調査からは、女性管理職を増やすためには、
「増やしたい」という方針を掲げることよりも、具体的な施策を継続的に実装することが重要
である可能性が示されています。
女性管理職候補者の育成、キャリア面談、評価制度、柔軟な勤務制度、育児との両立支援などを、単独の施策ではなく、組み合わせて運用していくことが重要です。

意向と実装のギャップ
最大の課題は「管理職候補となる女性社員が少ない」
女性管理職を増やすうえで課題となっていることを聞いたところ、最も多かったのは、
「管理職候補となる女性社員が少ない」45.9%
でした。
次いで、
「女性社員本人が管理職を希望しない」32.2%、
「育児等との両立が難しい」23.3%、
「女性社員の勤続年数が短い」19.6%
となりました。
なお、「女性社員本人が管理職を希望しない」という回答については、女性社員本人に質問したものではなく、企業側から見た認識です。
今回の調査は回答者の93.3%が代表者または役員であり、経営側が女性活躍についてどのように認識しているかを捉えた調査となっています。
そのため今後は、企業側が「本人が希望していない」と捉えるだけではなく、
「なぜ管理職を希望しないのか」
「管理職の責任と報酬は見合っているか」
「長時間労働や転勤を前提とした管理職像になっていないか」
といった、管理職という役割そのものの設計を見直す必要性も考えられます。

女性管理職を増やすうえでの課題(複数回答、n=270)
男女間賃金差異、32.2%が「算出していない」
女性活躍を考えるうえでは、管理職比率だけでなく、男女間賃金差異も重要な指標です。
今回の調査では、
「算出し、公表している」11.5%、
「算出しているが公表していない」28.1%、
「現在算出・公表準備中」6.7%
である一方、32.2%は「算出していない」と回答しました。
男女間賃金差異が生じる原因として企業側が最も多く挙げたのは、
「管理職に男性が多い」35.9%、
「勤続年数に男女差がある」25.9%、
「職種・仕事内容に男女差がある」23.3%
でした。
男女間賃金差異は、単に「同じ仕事なのに賃金が違う」という問題だけではありません。
管理職比率、勤続年数、配置、雇用形態、育児期の働き方など、企業の人材構成そのものを分析する必要があります。
女性活躍は「単発施策」より「複数施策」の企業で効果実感が高い
女性活躍の具体的な施策についても分析しました。
女性管理職候補者の育成、管理職研修、キャリア研修、1on1、評価制度、柔軟勤務、テレワーク、育児との両立支援などについて、実施している施策数別に効果実感を比較したところ、
0施策企業では18.2%、
1〜2施策企業では81.9%、
3施策以上企業では93.5%
が、何らかのプラス効果を回答しました。
さらに、「離職防止につながっている」と回答した割合は、
0施策 3.4%
1〜2施策 26.7%
3施策以上 50.6%
でした。
もちろん、施策数を増やせば単に効果が生じるという因果関係を示すものではありません。
しかし、少なくとも今回の調査では、単発の制度ではなく、複数の施策を組み合わせて取り組んでいる企業ほど、採用・定着・従業員満足度などへの効果を実感する傾向が確認されました。
女性活躍と同時に見えてきた「仕事と育児の両立」の課題
今回の調査では、女性管理職だけではなく、育児休業や短時間勤務についても調査しました。
育児休業や短時間勤務を利用する社員がいることで、
「他の社員の負担が大きく増えている」6.7%、
「やや増えている」43.7%
となり、合計50.4%の企業が周囲の社員の負担増を実感しています。
また、育児休業取得者の業務については、
「同じ部署の社員が分担する」50.7%、
「上司・管理職が担当する」31.5%
が上位となりました。
女性活躍や育児との両立を進めるためには、制度利用者本人への配慮だけではなく、仕事を引き受ける同僚や管理職を含めて職場全体を設計する視点が必要になります。

育休・時短による周囲の負担
「女性活躍」は、制度から組織設計へ
今回の調査から見えてきた最大のポイントは、女性活躍が「経営者が賛成しているか、反対しているか」という段階をすでに越えつつあることです。
女性管理職を増やしたいと考えている企業は少なくありません。
それでも、実際の女性管理職比率には大きな差があります。
この差を生んでいる可能性があるのは、意向の有無ではなく、
- 候補者を育てているか。
- キャリアについて対話しているか。
- 評価制度が整っているか。
- 育児と両立できる働き方になっているか。
- 管理職という仕事自体に魅力があるか。
といった「実装」の部分です。
今後の女性活躍推進では、女性管理職比率という最終的な数字だけを見るのではなく、
採用 → 定着 → 育成 → 管理職候補 → 登用 → 登用後の活躍
という一連のパイプラインを管理する必要があります。
また、育児休業や短時間勤務等の制度利用が広がるほど、代替要員、業務標準化、DX、復職後のキャリア、周囲の社員への負担といった、新しい課題も生まれます。
飯田橋・神楽坂社会保険労務士法人では、今回の調査から、
女性活躍や仕事と育児の両立支援を、単なる法令対応ではなく、採用・定着・育成・評価・配置・業務設計を含めた人的資本経営の問題として捉えることが重要
と考えています。
「女性管理職を増やしたい」で終わるのではなく、
実際に増え、活躍し続けられる組織をどうつくるか。
これが、女性活躍推進の次の課題ではないでしょうか。

女性活躍は意向から実装へ