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【シモキタ歴24年のカレー激ハマリ芸人ピストジャムが愛してやまない下北沢カレー10選】File.6~Bachibouzouk

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吉本興業のピン芸人、ピストジャムです。僕は、20歳のころにシモキタに越して来ました。カレー好きの僕にとっては、この街は天国です。

この特集では、僕が全責任を持って推薦する、美味しいカレーが食べられる店を紹介していきたいと思います。

File.6~Bachibouzouk


バターチキンカレー(1,000円)。小腹を満たすのに最適なサイズ感。チャージ500円。

シモキタには、店名がよくわからない店がある。看板に『花泥棒は珈琲屋です/カフェ・ヴォルール・ドゥ・フルール』と書かれた喫茶店。

初めて見たとき『花泥棒は珈琲屋です』という攻めた店名なのかと思った。バンド『水中、それは苦しい』みたいな。

調べると「ヴォルール」はフランス語で泥棒、「フルール」は花という意味だった。「ヴォルール・ドゥ・フルール」は花泥棒のこと。『花泥棒は珈琲屋です』は、「ヴォルール・ドゥ・フルールは珈琲屋です」という説明だった。

『Bar Bachibouzouk』も読みかたがわからない。とりあえず、ローマ字読みで読んでみる。

バー・バチボウゾウク

絶対に違う。さすがにこれは僕でもわかる。

調べると、どうやらこれもフランス語のようだった。意味は「旧オスマン帝国軍の不規則な部隊に属する騎士」。

意味がわからない。シモキタに慣れていない人がいりくんだ路地に翻弄されて迷うように、僕も迷宮に入り込んでしまったような気がした。

ただ、読み方だけはわかった。「バシブズーク」。常連はみな、略して「バシブ」と呼んでいるらしい。

バシブのマスターであるジュンさんと初めて会ったのは、『魔人屋』だった。昨年の4月13日深夜、どうしても店主のポコさんに会いたくなって十数年ぶりに店を訪れた。

扉を開けると、カウンターでポコさんと客が二人で飲んでいた。それがジュンさんだった。

日が明けて70歳の誕生日を迎えるポコさんを祝うために、客が途切れたタイミングで店を抜けて来たと言う。

「ふだん店に立ってて、なかなか飲みに来れないからさ」

少し照れたような表情でこぼすその言葉に、心があたたかくなる。信頼できる人だ。


オーナーのジュンさん(右)と著者。ジュンさんはイラストが得意で、オジー・オズボーンの公式LINEスタンプのデザインも手がけている。
それから、僕はバシブに足を運ぶようになった。もっとジュンさんと話したいと思ったし、どんな店なのか行ってみたかった。
 
店の外には鉢にトネリコという常緑樹が植えられていて、看板を覆いつくす勢いで育っていた。店に入ると、10席ほどのL字型の木製カウンター。店全体から木のぬくもりが伝わってくる。

壁に取り付けられた棚には、大量のCD。たばこをくわえるトム・ウェイツの横顔がカバーになったDVDはカウンターから見えるように飾られていた。

こじんまりした店内のいたるところから顔のぞかせるかわいらしい絵や小物。ギターやベースも置いてある。

ジュンさんの好きなものに囲まれた空間。まるで秘密基地に遊びに来たみたいだ。

トイレのドアに貼られた『VIDEOPHOBIA』という映画のポスターに目が止まる。白黒で、漫画家の山本直樹さんのイラストが描かれていた。

この映画は観たけれど、ポスターは初めて見た。映画のポスターで白黒なんて珍しいな、と思っていたら、この映画はモノクロだからポスターも白黒にして合わせているんだ、と気がついた。

テンションがあがり、ジュンさんに声をかける。

「このポスターめっちゃいいですね」

すると、ジュンさんは山本直樹さんをよく知っているらしく、主演の廣田朋菜さんの頼みで山本さんを紹介したらしい。

ジュンさんの交友関係の広さに舌を巻く。(このあと僕は何度かバシブにうかがうのだが、スピッツのキーボーディストであるクジヒロコさんにお会いした!)

バシブの酒は格別だった。とくに、アイスラムエスプレッソ。

コーヒー豆を目の前で挽いてつくってくれるので、つくり始めるとこうばしいコーヒーの香りがただよってくる。カクテルが完成する過程の段階から楽しめるなんてぜいたくだ。


アイスラムエスプレッソ(1,000円)。挽きたてのコーヒー豆の粉がまぶしてある。
ほかのカクテルも、なぜかいつもよりおいしく感じられた。店の雰囲気がそうさせるのかなと思っていたら、おいしい理由がちゃんとあった。

氷が違うのだ。バシブの氷は、氷屋から仕入れたものだった。

カクテル一杯にかけるジュンさんの思い。誠実で丁寧な仕事ぶりが、きちんと味にあらわれていることに感動する。
 
バックバーのとなりの黒板に書かれた、バターチキンカレーがずっと気になっている。アイスラムエスプレッソを飲んだあとだから、もう食べる前にわかる。絶対においしい。

バターチキンカレーを注文すると、ジュンさんは笑って答えた。
 
「そういえばカレー好きって言ってたよね? うちのはカスリメティも入ってるから」

カスリメティとは甘い香りとほろ苦い風味が特徴のスパイスで、一般的なスーパーではほとんど取り扱っていない。ジュンさんのこだわりがここにも。

できあがったカレーは、アイボリーホワイトの陶器のカレー皿に盛り付けられて登場した。ほんのり赤みがかったライスは十穀米、青々したパクチーも乗っている。美しいいろどりが食欲を刺激する。

やさしい口あたり。トマトの風味がしっかり感じられて、スパイスも効いている。こくのあるルーとさわやかなパクチーの相性もばっちり。カレー専門店顔負けの味わいだ。

うまい酒とカレー、そして心地よい音楽。バシブは、シモキタという街そのものを体現しているように思えた。
 
帰宅して、もう一度「bachibouzouk」という言葉を調べてみたら、アルチュール・アッシュというフランスのミュージシャンのアルバムに『バシブズーク』というものが見つかった。なんと彼は「フランスのトム・ウェイツ」と呼ばれているらしい。

つながった! そう思っていたら、アルバムの解説には『「bachibouzouk」とは漫画の主人公タンタンが困ったときに叫ぶ意味のない言葉』と書いてあった。

どうやら僕は、まだまだシモキタの路地から抜けられないみたいだ。

バシブズーク!!

【店舗データ】

Bachibouzouk
東京都世田谷区北沢2-9-13 岸田2号館 1F
03-5454-5438
18:00~翌2:00
定休日 日曜日
※営業時間・定休日は変更となる場合がございますので、ご来店前に店舗にご確認ください。

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